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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)828号 判決 1963年11月05日

控訴人(附帯被控訴人) 山田栄蔵

被控訴人(附帯控訴人) 大阪市

主文

本件控訴を棄却する。

原判決の主文第一項のうち、金員の支払を命ずる部分は、仮に執行することができる。

被控訴人(附帯控訴人)のその余の附帯控訴を棄却する。

控訴費用並びに附帯控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人)代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、本件附帯控訴につき、第一次的に附帯控訴却下の判決を求め、第二次的に、附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人)指定代理人は、主文第一項同旨及び「控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴として、「原判決の主文第一項は仮に執行することができる。」旨の宣言のある判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、被控訴人(附帯控訴人)指定代理人において、附帯控訴の理由として、「本件土地は、大阪市内中心部に位置する一等地であり、被控訴人は、従前から該土地の利用による事業の計画を行つてきたが、控訴人において原判決の確定を徒らに遅延せしめることを図つて被控訴人の右事業の施行を妨害しているので、被控訴人は、前記仮執行の宣言を求めるため、本件附帯控訴に及んだ次第である。」と述べ、控訴人(附帯被控訴人)代理人において、本件附帯控訴につき「被控訴人の仮執行宣言の申立は不適法であり、従つて、本件附帯控訴も不適法であるから前記のように、控訴人は、第一次的に附帯控訴却下の判決を求め、もし、仮執行宣言の申立が適法であると認められた場合には、第二次的に附帯控訴棄却の判決を求める次第である。」と述べ、なお、証拠として新に、当審における控訴人本人尋問の結果を援用した外は、いずれも原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

当裁判所は、被控訴人の控訴人に対する本訴請求を正当であると判断するのであるが、その理由は、原判決二枚目裏末行の「しかしながら」以下同三枚目表第二行の終りまで全部を「しかしながら、被告抗弁の原告が被告に対し本件土地の使用を承認した旨の事実につき、第二審における控訴人(被告)本人尋問の結果中右事実に照応するが如き部分は、後示証拠に対比して、たやすく措信し難く、他に右事実を認めるに足る証拠がないから、被告の右抗弁は採用できない。」と改める外は、原判決理由のとおりであるから、これを引用する。

次に本件附帯控訴について判断する。控訴人は、被控訴人の仮執行宣言の申立は不適法であり、従つて本件附帯控訴も不適法であると主張する。しかし、本訴請求は財産上の請求であり、これを全部認容した原判決主文第一項につき、被控訴人において仮執行の必要があると主張して右申立をなしており、しかも、仮執行宣言の申立は、事実審の口頭弁論終結に至るまでにこれをなし得べく、従つて、控訴審において初めてこれを申立てることもできると解する。しかし、本件のように、原審で全部勝訴の被控訴人が控訴審においてその請求につき、仮執行宣言の申立をなし、控訴人にとり、原審判決以上に不利益な判決を得ようとする場合は、いわゆる不利益変更禁止の原則から考察すると、右申立は、附帯控訴の方式によるを相当と解する。なお、附帯控訴の利益という点から考察するも、全部勝訴の被控訴人において、その請求につき、更に仮執行の宣言を得ることは利益であることはいうをまたないから、仮執行宣言のみを目的として附帯控訴をなす利益があるというべきである。以上の次第であるから、被控訴人の本件附帯控訴の方式による仮執行宣言の申立及び附帯控訴の申立は、いずれも適法であり、従つて、控訴人の前記不適法の主張はこれを採用することができない。ところで、本件における諸般の事情を参酌すると、被控訴人の仮執行宣言の申立は、原判決の主文第一項のうち、金員の支払を命ずる部分については、相当と認めるので、これを許容するが、その余の部分については、不当と認めるので、これを却下すべく、従つて、右却下部分に関する本件附帯控訴は理由がない。

そうすると、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であるから、本件控訴はこれを棄却すべく、前記のように、被控訴人の仮執行宣言の申立は、その一部を許容し、その余を却下するので、その却下部分に関する本件附帯控訴はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九二条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 井関照夫 安部覚 松本保三)

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